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EXCELSIOR

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旅の魔術師の冒険譚、朱雀の涙編です。
偽島の日記欄に書かせていただいた厨二病駄々漏れなファンタジー小説。
補完として置いておきます。

書いてみて分かったことは自分には文才は無いな、ということでした(´・ω・`)
お暇な時にでもお読みください。

なお、丸々載せるだけでは芸が無いので最後にあとがき・解説も追記しております。
合わせてどうぞ。

朱雀の涙 #1


「セカンド!行ったぞ!」
「はいはい、任せて!・・・あ。」
ゴンッ!
空から降ってきたボールが顔面に直撃する。
・・・刹那、ランナーが三塁を回る。
「バカ、何やってんだ!」
キャッチャーが叫ぶ。
「バックホーム!」
「んのぉ・・ちくしょー!」
ぼくは素早く地面に転がったボールを引っ掴むと渾身の力を込めてホームに投げる!
キャッチャーとランナーが交錯する。
そして一瞬の静寂。
「セーフッ!セーフッ!」
ワァァァと歓声が沸き起こる。
ホームに帰還したランナーはチームメイトに揉みくちゃにされてもなお嬉しそうだった。
ぼくはその光景を眺めながら四方から感じる殺意に怯えるのであった・・・。



「お前のせいだからなー!」
「分かってますって・・・お詫びに何でも頼んでいいですから・・・」
ここは中央通りのレストラン。
今日行った草野球のチームメイト達と訪れたのである。
「全く、そんなんじゃ割にあわねーっつーの!」
キャッチャーだった人はすごく不機嫌そうだった。
それには訳がある。
この人・・このチームのキャプテンと今日対戦した相手チームのキャプテンは
十数年来の腐れ縁なんだそうだ。
いつもくだないようなことで競い合っているらしい。
仲が悪いというわけではなく、良い意味でライバルなのであろう。
今回は勝った方が負けた方を1ヶ月パシリにするという約束をしてしまったらしい。
なので助っ人として旅人のぼくにも声が掛かったというわけである。
・・・しかし、チームは9回の裏でまさかの逆転負け。
ぼくのエラーさえなければダブルプレーでうちの勝利に終っていたのであろう。
キャプテンが怒るのも無理はない。しかし・・・・。
「そんな約束してるなんて一言も言わなかったじゃないか・・・」
「なんか言ったか!?」
「いえいえ、なんにも~」
ギロリと睨みを効かせるキャプテンをにこやかな笑顔でかわす。
・・・しかし、みんな食べすぎ。
ちょっとは遠慮してよ・・・。
「あれぇ?お前らもここに来てたのかぁ!」
「あ、貴様・・!」
ニヤニヤしながら現れた人物・・・そう、相手チームのキャプテンだ。
後ろにはチームメイトを引き連れている。
「合席いいかな?」
「ダメだダメだ!帰れ!」
「あっれぇー?何か今日は冷たくなぁーい?」
対照的な二人を見ていると少し可笑しくなって吹きだしてしまった。
「お、君は助っ人くんじゃないか!いやぁ、ありがとうねぇ!君のおかげで助かったよー!」
ピキッ。
こいつ・・・言わせておけば。
「いっぱい頼んでるねぇ、誰が支払いするの?」
「ん。」
キャプテンはスパゲッティを頬張りながらぼくを指差す。
「じゃ、ぼくも何か頼んでいい?」
「ん。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!何で相手チームの食事代まで出さないといけないの!?」
スパゲッティを飲み込んだキャプテンが口を開く。
「あぁ!?なんか文句あんのか!?」
「あ・・いや・・ないです・・・」
相手チームのキャプテンは機嫌よくチームメイトの注文を聞いてまわっている。
嗚呼・・・・ぼくの財布が軽くなっていく・・・。
というか何でうちのキャプテンヤクザみたいな外見なんだろ・・・。

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朱雀の涙 #2


「あつい・・・」
真昼間の街を歩く。
8月の太陽は容赦なく街に降り注ぎ全てを白く染め上げていた。 
ぼくはいつものようにある場所へ向かっていた。
底の見えた財布を潤わせる為に・・・。

カランカラン。
ドアをくぐった先からは生暖かい空気が流れてきた。
「こんにちはー」
「・・・おう、ハイアットの坊主か」
カウンターの中にいるスキンヘッドの中年はいつものように無表情だった。
「おじさん、何か儲かる話きてない?」
「何も頼まない客にくれてやる仕事はねぇよ」
「え、いや・・冒険者ギルドでしょ、ここ?そんなのって・・・・・・・じゃぁ・・・・・ミルク」
スキンヘッドの無言の威圧に押し負けてしまった・・・・ダメだなぁ、ぼく・・。
生活費すら危ういというのに・・・・。

この街に来てからもう3週間になる。
目的の家出少女がこの街に立ち寄ったというから
訪れたものの、目撃証言を得ることすらできなかった。
最初は宿をとっていたもののついに資金は底を尽き、今ではアルバイト先で居候生活だ。
アルバイトを休んでまで参加した草野球は勝てば生活費を少し恵んでくれるという話だったのだ。
逆に財布が軽くなってしまう結果になったが・・・。
それはさておき、すっかり街の人達とも顔見知りになった。
草野球のメンバーや、今目の前でグラスにミルクを注いでいるスキンヘッドもそうだ。
住んでしまえばきっとそれなりに楽しい毎日にはなりそうだ。
勿論、そんなつもりはないが資金を調えないことには動きようがないのだ・・・。
「ほらよ」
「どうも」
カウンターを滑ってきたグラスを受け取る。
「無いこともないがな、仕事」
「え、ほんと?」
「脱毛剤の実験投与。なかなかの額だぞ」
「・・・・・」
ぼくはじと目になりながらグラスに口を付ける。
「他は普通のバイトとかだな。この辺は賞金首モンスターもいないし」
「そうだよねぇ・・・どうしよっかなー」
大きく溜息をつく。
「そういえば気になる噂を聞いたぞ」
「どんな噂?」
「赤い色の翼の大きな鳥が東の山のほうに飛んでったらしい」
「それ・・もしかして朱雀じゃないの!?もっと詳しい情報を教えて!」
「一杯だけしか頼まない客にくれt「ミルクもう一杯だ、畜生ー!」

朱雀というのはとても珍しい大翼鳥である。
朱雀は一生に1回、1個だけ卵を産む。
その際に体内で作られた結晶を排出するらしい。
その結晶は水滴が落下したときのような形をしている為、『朱雀の涙』と呼ばれている。
綺麗な緋色をしており、その美しさと希少価値から数十万から数百万で取引されている。
「見かけたのは一週間くらい前が最初らしい。その後何回か同じ山の方に飛んでいったんだとさ」
スキンヘッドはさっきと同じようにミルクの入ったグラスを滑らせてきた。
「きっと巣作りをしていたんだと思うな・・・時期的に見て丁度卵を産みそうな頃合じゃないかな。」
ぼくはグラスに入った白い液体を眺めながら考え込む。
「おじさん、その山がどれかも知ってるんでしょ?レベルは?」
「5だな。8万で提供するぜ」
「くっそー、生活費がぁ・・・・でもこれに賭けるしかないか・・・」
暫く頭を抱えていたが財布から数枚の紙幣をスキンヘッドに突き出した。
「毎度。オリオールの山だ、場所は知ってるだろ?」
「オリオールか・・・山道が作られてないからあまり行きたくないんだけどな・・」
「だからこそ朱雀も巣を作ったんだろ」
「違いない」
ぼくは立ち上がり、ミルクを一気に流し込んだ。
「ご馳走様、今日は準備があるからもう帰るよ」
ぼくはドアに向かって歩き出した。
「代金は?」
ぼくは立ち止まり、振り向きながらニコッと笑った。
「つけといて!」

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朱雀の涙 #3


「それじゃ、ちょっくら行ってきます」
ぼくはバイト先兼下宿先である小さな洋食店の門を出た。
「本当に時間までに帰ってくるんでしょうねぇ?」
すぐ後ろまで来ていたおばさんに声を掛けられる。
この人は女手一つで店を切り盛りしてきたという敏腕な店長だ。
店長の作るハンバーグはとてもおいしくて近所の人たちにも評判のようだ。
ぼくも食べさせてもらったが、ものすごくおいしかった。
「大丈夫ですって!明日のバイト時間までには帰りますから」
「ならいいんだけど・・・・戻らなかったらクビだからね」
「え・・ちょっと待っ」
バタンッ!
扉を閉める大きな音と共に店長は姿を消した。
そこにはポツンとぼくだけが残されているのであった・・・・。

オリオールの山はこの街からは片道7時間くらいである。
往復だけなら14時間であるが、探索時間も合わせればバイト時間までに戻れるかは・・・怪しい。
もし朱雀の涙を入手できず、さらにバイトまでクビになれば本気で一文無しである。
「やばい、出発したばっかだけど気が滅入ってきた」
がっくりうな垂れながら、それでも足取りだけは急いでいた。

ようやく目的地に到着した。
日も暮れ始めている。
夜に未開拓の山に入るのは危険であるがそうも言ってられる状況ではない。
大きく息を吸い込み、フッと吐き出す。
「さぁて、行くか!」
声に出して気合を入れたぼくは山に入ることにした。
山の中は全く山道が作られておらず、そのせいも相まって全く人が立ち入った形跡がなかった。
あるのは鬱蒼とした木々とむせ返るような緑の匂いだけであった。
草木を掻き分けながら前へ前へと進む。
山頂を目指すのは大して苦ではない。
何故なら斜面を登っていけば自然と頂上に出るからだ。
ただし山頂に朱雀が巣を作っているとは限らない。
可能性としては高いのだが・・・。
どれだけの時間進んでいたのだろうか。
辺りはすっかり暗くなってしまっていた。
思っていたよりも木々や蔦などが生い茂っていたせいで何度も足元をすくわれた。
その分だけ予定に誤差が生じてしまったのである。
ぼくは鞄の中からランタンと発火石を取り出した。
発火石を擦り合わせてランタンに火を灯した。
こういう時に火霊や光霊が使えたら楽なんだろうけど・・・。
「しかし、結構高いな・・この山」
もう山に入って数時間は経ったであろうと思われる。
それなのにまだ山頂に到達しない。
少し甘く見すぎていただろうか・・・・。
そう思い始めた時、開けた場所に出た。
ススキによく似たような植物が地面を覆っていた。
一見しただけだと草原のようである。
地面の傾きもあまり感じられなくなっていた。
「ここが山頂か・・・・?」
辺りを見回してみたが特に目に付くようなものはない。
まだ全部見て周ってわけではないが、朱雀は大翼鳥である。
居ればすぐ気付くであろうし、その卵も結構な大きさだと考えられる。
巣は山頂ではなかっただろうか。
仕方ない、今度は反対方向を探すか。
そう思い、歩き出そうとした刹那、
「ピーッピーッ」
頭上から鳥のヒナのような鳴き声が聞こえてくる。
ぼくはハッとして鳴き声が聞こえてきた方を見やる。
するとぼくの少し後方に生えていた木の頂上辺りに大きなトゲトゲしたものが見える。
巣だ。
それはまさしく大きな鳥の巣であった。
「見つけたっ・・・!」
ぼくは自分の口元が大きく釣り上がるのを感じた。

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朱雀の涙 #4


ぼくは巣が作ってあるであろう大木の下に移動した。
たぶんこれで間違いないであろう。
あとはどうやって巣まで行くかだけど・・流石にこの木は登れないか・・。
目の前の大木は周りを一周するだけで30秒くらいかかるとんでもない大木である。
巣に辿り着くどころか、2メートルも登れないかもしれない。
「仕方ない、アレ使うか」
ぼくはその場で屈みこみ、地面に手を付いた。
すると地面が僅かに光りだした。
「さぁ・・・来い!」
その瞬間足元の地面から岩が飛び出し、ぼくを乗せたまま上昇していく。
よし、このまま巣まで・・・痛い、痛いって!枝が引っ掛かかるって!
・・・本番を前に既に傷だらけだが気にしてはいけない。
暫くして岩は巣の真横で停止した。
ぼくは軽やかに巣へ飛び移った。
その刹那、岩は撃ち抜かれた鳥のように力なく落下していき、遥か下から鈍い音が聞こえた。
ぼくは前方を見やる。
ぼくと同じくらいの高さの鳥のヒナであろう生き物が目の前に居た。
そのヒナは相変わらずピーピー鳴いていた。
ぼくは周囲をグルっと見回した。
このヒナの親と思わしき朱雀は周りには居ないようであった。
これは絶好の機会だ。
朱雀の涙は産卵の際に排出される。
ヒナが生まれている今、朱雀の涙は巣のどこかに転がっている可能性が高い。
「探させてもらうとしますか、ちょいとゴメンよー」
ぼくはヒナの近くに寄り、目当ての物を探し始めた。
ヒナはいっそう強く鳴き始めたがぼくは大して気にしなかった。
そして・・・・。
「あった!」
巣に敷き詰められている小枝の下に隠れてあったソレは燃える様な緋色をしていた。
朱雀の涙は噂通り雫のような形をしていた。
中を見やると、緋色の流体がうねうねと流れているように見える。
「すごい・・・」
ぼくはその美しさに心を奪われていた。
その時。
「ギャギャギャーーッ」
背後から獣の奇声のようなものが聞こえてくる。
刹那、ぼくは瞬間的に横っ飛びになった。
ぼくの頭があったところを鋭い爪が通過していく。
「あらら・・・親御さんのお帰りだ」
ぼくは体制を立て直しながらソイツを直視する。
深紅の翼、その巨体・・・間違いない。朱雀だ。
その大翼鳥の瞳からは明らかな敵意を感じる。
・・・威圧されている。
まともにやりあって勝てる相手ではないと直感する。
汗が背中を伝う。
「さぁて・・・どうしよっかな」
ぼくは自分に問いかけた。

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朱雀の涙 #5


思案を巡らせる。
正面からやり合うのは危険だ・・・。
ぼく程度の魔法では傷を付けるくらいしかできないだろう。
いや・・・そもそも朱雀は子を守ろうとしているのだ。
ぼくは朱雀の子供に用はない。
そうだ、目的の涙は既にこの手にあるではないか。
だとすれば、もう考える必要性はない。
「三十六計逃げるに如かず、ってね!」
ぼくは振り向き、朱雀の涙を腰のポシェットに入れながら全力で走った。
「ギャギャーーーッ」
朱雀が追いかけてくるのが分かる。
巣はすぐ先で切れている。
「いぃぃぃぃぃぃぃやっっっっほぉぉぉぉぉぉう!!!」
ぼくは思いっきり地を蹴る。
暫く浮遊感に似たようなものを覚えたが、すぐさま体が足元に引っ張られる。
足元には既に巣はない。
木の根元に向かってすごい速さで落下していく。
「地よ、我を受け止めし泉となれ!」
言葉を紡いだ刹那、地面が仄かに光り次の瞬間には地面がゆらゆらと動き始めた。
そう、液体に変わったのである。
ドブァァァン!!
ぼくは思いっきりその液体の中に飛び込んだ。
勢いで頭まで液体に浸かったが、暫くして液面に顔をだした。
「ぶえ!なんだこれ、泥じゃないか!」
ぼくは苦虫を噛み潰したような顔をしながらその「泥沼」から這い出した。
「むぅ・・ドロドロだぁ・・」
このまま帰ったら店長になんて言われるか・・・・。
ぼくは少し泣きたくなった。
不意に頭上に気配を感じた。
ぼくは反射的に横に転がるように動くと、ぼくが元居た場所に朱雀が体重を掛けて着地した。
「ギャギャギャギャギャーーーーッ」
朱雀は咆哮を上げる。
「く・・・・っそぉ」
ぼくは立ち上がり駆け出す。
朱雀も構え直し、ぼくを追いかけ始めた。
何故だ・・・何故追ってくる?
ぼくは半ば混乱していた。
子供を守りたかっただけではないのか?
・・・涙を取り返そうとしている?
ぼくはススキもどきの草原を抜け森に入る。
あれだけの巨体だ、森に入れば木々が邪魔で入ってこれまい。
と次の瞬間、炎の渦がぼくの肩を掠める。
「うわぁ!」
ぼくは驚いて飛び退いた。
「う、嘘でしょ・・・?」
その炎は朱雀の口へ続いていた。
こいつ、火を噴くのか!
ぼくは今までと比べ物にならないくらい無我夢中で走った。
前方から迫る木々と後方から迫る炎をかわしながら走る、走る、走る。
何時しか開けた場所に出た。
山の麓まで戻ってきたのだ。
後方の炎が止んだと感じた刹那、朱雀はぼくの前に回り込んできた。
ハァ、ハァ・・・。
ぼくは肩で息をしながら立ち止まる。
やるしか・・・ないのか・・・・!
その時光が差し込んできた。
山の間から朝陽がのぞいたのだ。
キラリ。
「・・・・ん?」
不意に、朱雀の額の所が光った気がした。
なんだろう・・・何かくっついてるのか?
ぼくはハッとした。
あれは・・・朱雀の涙・・。
だが、ぼくがさっき見たような綺麗な緋色ではなかった。
少し黒ずんだような、まるで長い年月を経て子供が大人に変わったかのような色。
ぼくは全てを理解した。
「お前のその額の石、親に貰ったの?」
朱雀は答えず、真っ直ぐにこちらを見ていた。
ぼくは腰のポシェットから朱雀の涙を取り出した。
「これは親から子へ送る、最初のプレゼントだったんだね」
ぼくは朱雀の前に歩み寄り、手を差し出す。
「ごめん、返すよ」
手の上には生まれたばかりの朱雀の輝きを表したかのような涙が朝陽を浴びて輝いていた。
朱雀はゆっくりとそれを咥えると、山頂に向かって羽ばたいていった。
ぼくはそれを暫く見送っていたが小さな溜息と共に地面に倒れこんだ。
空は綺麗に澄んでいた。
「あぁ・・・バイトの時間に間に合わない。もうクビ決定かなぁ」
そうして暫く空を眺めていると、羽ばたきの音が聞こえてきた。
ぼくは上体を起こして音の正体を確かめる。
目の前には白い大蛇を咥えた朱雀が地面に着地しようとしていた。
ぼくは不思議に思って朱雀を見つめていると、咥えていた大蛇を地面に置いたのであった。
「もしかして、その蛇ぼくにくれるの?」
「ギャーッ」
朱雀は小さく鳴くと山頂の方へ飛んで行ってしまった。
ぼくは再び大の字になった。
「蛇ねぇ・・・どうしろって言うのさ」
ぼくは懐から太陽の形をしたロザリオを取り出し、胸の上でギュッと握った。
「あ。朝御飯にはなるか」
空はもうすっかり明るくなっていた。

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朱雀の涙 #6


カランカラン。
何時ものドアをくぐると、何時ものように生暖かい空気が流れてきた。
「こんにちは、おじさん」
「・・・おう、いらっしゃい」
カウンターの奥で相変わらずなスキンヘッド頭のマスターが返事を返してきた。
ぼくは一番手近なカウンター席を陣取ることにした。
「注文は?」
「ん、じゃぁミルクで!」
ぼくが悪戯気味に笑うと、スキンヘッドは一瞬肩を竦める仕草をしたが直ぐに作業に移行した。
「今日発つのか?」
ミルクをグラスに注ぎながら聞いてきた。
ぼくは唐突な質問に少し戸惑ったが、大きな鞄を持ってきてたことを思い出し理解する。
「あぁ、うん。今までお世話になったよ」
「何もしてねぇさ」
そう言いながらミルクの入ったグラスをカウンターで滑らせてきた。
ぼくはそれを受け取る。
「いや、マスターがあの情報を回してくれなければまだバイト生活してたと思うな」
「俺は商売をしただけのことだ。感謝すべきはあの朱雀だろう?」
ぼくは両手で持っていたミルクに目線を落とす。
「・・・うん、そうだね」

結局あの後、白蛇を朝食においしくいただいた。
もちろん全部は食べ切れなかったが。
流石にもう帰ろうと思ったが、戦利品ナシはあまりにも癪だったので
その白蛇の皮でも売れないかと考えその皮を剥いで持ち帰ったのだ。
これが正解だった。
交易商のおっちゃんが言うにはとても希少な蛇の皮だという。
南の国ではこの白蛇の皮が貴族の間で人気なのだそうだ。
ぼくは即金で30万を受け取ることができたのだった。

バイト先兼下宿先の洋食店に辿り着いた時にはもうすっかり日も真上に移動していた。
バイトの時間は十分すぎるほど過ぎてしまっていた。
ぼくは店長の鬼の様な形相を思い浮かべ逃げたくなったが、覚悟を決めて店内に入った。
すごく予想外なことに店長は安心したような顔をしてぼくの所に駆け寄ってきた。
約束の時間になっても戻ってこないぼくのことを心配してくれていたらしかった。
ぼくは嬉しさのあまり、少し泣きたくなった。
が、その後ドロドロなぼくの格好を見て思いっきり怒りはじめた。
ぼくは悲しさのあまり、少し泣きたくなった。

そしてその2日後、つまり今日、再び旅立つ為にお店を後にした。
店長は今までの厳しさが嘘のように優しい笑顔で見送ってくれた。
「人生は出会いと別れの繰り返し。こうやってアンタがうちにバイトにやってきたのも、
そして去っていくのもその中の一つさ。でも一々寂しがってちゃぁ生きていけない。
その一つ一つは私の人生にとって誇りさ。勿論、アンタとの出会いもね。」
ぼくは自然と涙が溢れてきた。
そして思った。きっとこれが母の温もりなんだ、と。

「どうした?」
スキンヘッドが怪訝そうな顔で聞いてくる。
「あぁ・・・いや」
少しの間物思いに耽っていたようだ。
ぼくは首をブンブンと振った。
「やっぱりぼくに関わった人皆のお陰だ。勿論朱雀を含めてね」
スキンヘッドは鼻で笑ったが悪意のあるものではなかった。
ぼくはグラスに口を付ける。
「しかし・・・・」
スキンヘッドの口元が少しつり上がっていた。
「朱雀の涙を取りに行ってたった30万とはな・・・持ち帰ったのは雀の涙というわけだ」
言った瞬間、ガハハハハと豪快に笑い出した。
ぼくは初めて見るスキンヘッドのそんな姿に呆気に取られていたが、
あまりにも寒いオヤジギャグに次第にじと目に変わっていった。
「いいさ、実にぼくらしくて」
ぼくは一気にミルクを飲み干した。
「さて、もう行くよ」
ぼくは立ち上がり鞄を背負い込む。
そしてドアに向かって歩き出した。
「今までのツケ、ちゃんと払って行けよ」
スキンヘッドはカウンターに肘を乗せながらダルそうに言った。
「あ、忘れてた!ごめんごめん・・・あはは」
ぼくは苦笑いしながらカウンターの方へ寄って行った。
「それで、いくら?」
スキンヘッドは棚に置いてあったメモを持ってきて、そして読み上げた。
「ミルク27杯で2240ね」



それにしても暑い・・・。
ぼくは通り慣れた中央通りを歩いていた。
真夏の太陽はぼくを直火焼きにしたいらしい。
「よう、旅人さんじゃねぇか!」
急に背後から聞き覚えのある声がした。
振り返るとそこにはヤクザみたいな外見の男が立っていた。
そう、ぼくが参加していた草野球チームのキャプテンだ。
「あ、キャプテン!お久しぶりです」
「うむ。旅人さん、その荷物・・・ついに旅立つのか?」
「うん、旅の資金も調いましたしね。キャプテンにもお世話になりました」
ぼくは少し頭を下げた。
「いや、俺は別に何もしてねぇしな。それより次の目的地とかは決まってるのか?」
「特には決まってないんですけどね・・・とりあえず大きな街に行ってみようと思います。
目的の情報が見つかるかもしれませんので」
大通りはいつも通り人で賑わっていた。
少し喧騒が耳障りではあったが、二人の会話を阻害するほどでもなかった。
「その目的って何?良かったら聞かせてくれないか?」
ぼくは少し俯き、思い出すように話し始める。
「うん、ちょっと家出少女の捜索の依頼を受けててね。銀髪で歳は今16かな。名前は・・・」
「エリーゼ?」
ぼくはハッっと顔を上げて、驚愕の顔でキャプテンを見つめた。
今まさにその名を口にしようとしていたのだ。
「な、何でその名前を知ってるんです?一体どこで!?」
ぼくはキャプテンに詰め寄った。
キャプテンは後退り、困ったような顔で話し始めた。
「いや・・・旅人さんがこの街に来る2週間くらい前にこの街に来てたんだよ」
ぼくは少し後ろに下がって再び俯く。
「でも、ぼくも聞いて周ったけどそれらしい情報は得られなかったし・・・」
「街外れの爺さんの家に寝泊りしてるって言ってたな。街に来る時は草野球に参加する時
くらいなモンとも言ってたから目撃証言が少ないのも当たり前かもしれないな。
草野球チームの奴らは全員知ってるコトだぜ?聞いてなかったのか?」
・・・迂闊だった。
彼女が野球大好きなことは十二分に理解していた筈だった。
それなのに、草野球チームのメンツが知っているワケがないと何故高を括っていたのだ!?
ぼくは心の中で自分を責めながら項垂れていた。
「そういえば彼女、野球上手かったなー!旅人さんとは大違いだな!」
空気の読めないキャプテンはウハハハハと豪快に笑った。
こちらは何時もの光景であった。
ぼくは再び顔を上げると、バツが悪そうに頭を掻きながら言った。
「エリーゼに野球を教えたのはぼくなんだよ」
さっきまで笑っていたキャプテンだったが、今は目を丸くしていた。
「彼女、何処行くって言ってました?」
「ん?あぁ、港町に行くって言ってたな。ココから行ける港町だと、オクトラインのことだろう」
「オクトライン・・・じゃぁぼくが行こうとしてたトコロと同じですね」
ぼくは緩やかな笑みを作りキャプテンに向けた。
「情報、ありがとうございます。それではぼくはもう行きますね」
ぼくはクルッと反転し、街の外に向かって歩き出した。
「あ、旅人さん!名前まだ聞いてなかった!」
ぼくは背を向けたまま片手を上げて答えた。
「フュリー・ハイアット!」

---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
あとがき


酷いですねー(苦笑)
勢いだけで書いたので文法とか滅茶苦茶だし、そもそもぼく自身国語力が無いのでどうにもこうにも。
軽く流されて当たり前のような文章、もし読んで下さった方がいるなら全力でありがとう。

この物語は常に主人公・フュリーの視点により描かれています。
なので台詞でないところでも一人称は常に「ぼく」です。
多くの小説では、「太郎は立ち上がり振り返るのであった」のように、
第三者が物語を傍観するという書かれ方をしています。
ですが、これはあくまで「フュリーの冒険」ですので、それ以外の視点は使わないようにしております。

また、出来るだけ固有名詞は使わないようにしています。
ギルド員をスキンヘッド、草野球チームのリーダーをキャプテンと呼称しているのがその例です。
全く知らない物語を読むときに初めから意味不明な固有名詞が羅列していると読む気が失せる、
というのはぼくだけの考え方なのかもしれませんが。

更に、出来る限り描写を少なくしてテンポの良い会話を表現する、という目論見があったりしたのですが
どうかな・・・・なんかこれは思いっきり失敗している気もしますが(汗)

さて、劇中では朱雀という鳥が登場します。
これは知らない方は居ないというほど有名な中国に登場する架空の生き物ですね。
フュリー達の世界ではぼくらの世界ではフィクションな存在のモノ達が数多く存在します。
なんでもありです。ファンタジーって便利だね!
劇中でも火を噴いている通り朱雀は火のイメージがありますが、
実はこれは間違いで朱雀自身に火の属性はありません。
火を持つのは鳳凰なんですね。


長々と書くのもアレなのでこれにて終りたいと思います。(もう十分長いかもしれませんが)
もっと面白い文章を書けたらいいな・・。
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